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開拓者たれ―あくなき挑戦を支えるJGAP
[ 北海道 有限会社藤井牧場 ]

120年の歴史を誇るメガファーム
北海道富良野市に位置する藤井牧場は、創業120年を迎える歴史ある牧場だ。現在、約1800頭の牛を飼育し、年間1万1000トンの生乳を出荷する、日本でも有数のメガファームである。従業員は正社員41名、アルバイトや海外実習生を含め65名が働く。
5代目を務める藤井雄一郎氏は、創業者から受け継ぐ言葉「開拓者たれ」を胸に、常に新たな挑戦を続けている。藤井牧場の特徴の一つが、牛が快適に過ごせる環境づくりだ。牛舎では牧草地に横たわるのに近い自然な環境を再現した砂のベッドを採用し、牛の健康を第一に考えた設備を整えている。また、自主流通に力を入れ、牛乳のブランド化やチーズの商品開発も進めている。

JGAPへの挑戦―農場HACCP からさらに高みへ
藤井牧場は、2012年に日本で初めて農場HACCP認証を取得した。農場HACCPは、農場における衛生管理を向上させ、病原微生物等による汚染リスクを低減し、健康な家畜及び畜産物を生産するための基準だ。 「ヨーロッパでは、消費者が商品を選択する際の基準の一つとしてユーレップギャップがあることを知り、日本にも同様の仕組みがないかと思い、農水省に問い合わせました。そこで、農場HACCP認証制度が設立されたと聞き、それが取り組みのきっかけとなりました。」
その後、東京オリンピック・パラリンピックの調達基準としてJGAP認証が設定されたことを知り、国際基準に適合するためにJGAP取得を決意した。農場HACCPが衛生管理に特化したものである のに対し、JGAPは環境保全やアニマルウェルフェア、人権保護など、より包括的な基準を含む。
認証取得の壁―「面倒くさい」を乗り越えろ!
JGAP認証を取得するにあたり、新たな視点での管理体制の整備が求められた。
「生産工程の管理に関しては、農場HACCPで構築してきたため、そのまま活かすことができました。しかし、農場HACCPとは異なる部分も多くありました。例えば、アニマルウェルフェアへの配慮、環境への影響、さらには人権に関する対応など、JGAP独自の要件については新たに学ぶ必要がありました。ただ、取得自体に大きな困難があったわけではありません。」
農場HACCPは衛生管理を重視する防御型の仕組みである のに対し、JGAPは経営戦略としての側面も強い と藤井氏は考える。
「JGAPとして求められる部分と、農場HACCPとして求められる部分は異なります。2つの基準を並行して運用することは確かに手間がかかります。しかし、経営の未来を切り開いていくためには、必要な取り組みだと考えています。」

信頼が最大の武器に!JGAPで広がる未来
JGAP認証取得後、藤井牧場ではトレーステストの強化が進められた。トレーステストとは、異物混入や品質に問題が発生した際に、その牛乳がどの牛から搾乳されたものか、どんな餌を食べていたのか、搾乳機器の洗浄履歴はどうかといった情報を迅速に追跡するためのシステムである。
「トレーステストは非常に役立っています。弊社では自主流通で出荷を行っていますが、何年かに一度はクレームが入ることもあります 。その際、トレーステストを実施していることで、急な対応が必要になっても、私が不在であっても従業員が適切に生産工程管理に問題がないことを示せる体制が整いました。」
また、従業員の意識改革と働きやすい環境づくりにも力を入れている。JGAPでは、乳房炎に罹患している牛や分娩後の牛の識別管理、搾乳機器の洗浄記録など、細かい基準が設けられている。それらを厳格に管理することで、品質の向上だけでなく、現場の意識も高まった。加えて、スキルアップのための研修を定期的に実施し、スタッフの成長を支援している。
さらに、社員食堂を設け、栄養バランスの取れた食事を200円で提供するなど、働きやすい環境づくりにも取り組んでいる。こうした取り組みが、品質管理の向上にもつながっている。

A2ミルクと未来開拓―新たな時代への一歩
藤井牧場は、新たな挑戦としてA2ミルクの普及と「富良野未来開拓村」の設立を掲げている。
2020年、藤井社長は「一般社団法人A2ミルク協会」を設立し、代表理事に就任した。A2ミルクは、特定のβカゼインタンパク質(A2型)のみを含む 牛乳で、消化吸収に優れ、おなかに優しい牛乳として注目を集めている。A2ミルク協会では、A2ミルクの認証を取得するために、JGAPもしくは同等の認証の取得を必須要件としている。
また、藤井牧場の次なる目標は、2030年までに「富良野未来開拓村」を設立することだ。これは、日本の農業の未来を担う人材育成と、新しい農業技術の導入を目的としたプロジェクトである。
「開拓者たれ」―この言葉を胸に、藤井牧場は、今後も挑戦を続け、より持続可能で高品質な酪農経営を目指していく。

(取材年月:2024年9月)
※農林水産省「令和6年度 持続的生産強化対策事業(畜産GAP拡大推進加速化)」より