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震災の試練をJGAPで克服
[ 石川県 株式会社ホリ牧場 ]

石川県初の畜産JGAP認証農場
石川県のほぼ中央に位置する河北潟のほとり、内灘町に広がるホリ牧場。90年以上にわたり地域に根ざし、約400頭の牛を飼育し、14名の正社員と6名のアルバイトが働いている。
2024年1月、ホリ牧場は、食品安全、環境保全、労働環境、家畜衛生などに関する厳格な基準を満たした農場に与えられるJGAP認証を、畜産分野として石川県で初めて取得した。しかし、その道のりは決して平坦なものではなかった。

信頼と働きやすさを求めて
JGAPを取得した目的について、ホリ牧場の専務取締役・堀牧人氏は次のように語る。「JGAPを取得することで、乳業メーカーや代理店の方に安心感を持ってもらえることを目指しました。そして、会社を整え、従業員の働く環境を改善したいという思いから、認証取得を決めました。」
では、認証取得を考え始めた当初、従業員の反応はどうだったのか。従業員の半田風子氏は、当時を振り返る。「以前の労働環境は厳しく、特に長時間労働がつらかったです。JGAPを取得して環境が改善されることを期待して、ついていこうと思いました。他の従業員も関心を持ち、前向きに清掃に取り組むなど、職場全体が活気づきました。」

JGAPが生んだチームワークの向上
JGAP認証取得に向けた取り組みの中で、ホリ牧場には大きな変化があった。「組織力が向上したと実感しています。以前は個々に仕事をしていましたが、JGAPに取り組むことで話し合いが増え、方向性を共有しやすくなりました。一人ひとりが役割を意識するようになりました。」と堀氏は語る。
ホリ牧場では、認証取得を決めてから2カ月に1回のミーティングを開催。生産管理だけでなく、JGAPの運用についても話し合い、外部のコンサルタントを招いて従業員全員で意見を交換する場を設けた。もともとミーティングは開催されていたが、以前は牛に関する話題が中心だった。しかし、JGAPに取り組み始めてからは、労務管理や労働安全についての議論も活発になった。
整理整頓の面でも大きな変化が見られた。従業員の松田くるみ氏は、「JGAPを始める前は、道具などが乱雑に置かれていて、手のつけようがない状態でした。でも片づけを進めるうちに牛舎全体が綺麗になっていくのがとてもうれしかったです。」と話す。
また、教育の面でも改善が見られた。「新しい人が入ってきたとき、教える人によって説明が違うと、新人は判断に迷ってしまいます。でも、JGAP導入後は、誰が教えても統一されたルールを伝えられるようになりました。これはとても良いことだと思います。」と柴野匡史氏。

想定外の試練、JGAPが支えた復旧
JGAPの取得には、多くの困難があった。「苦労の連続でした。特に、忙しい合間を縫っての文書作成が大変でした。外部委託契約書、災害時対応手順、トレーサビリティマニュアル、リスク評価など、すべてを一から作成しました。」と堀氏。しかし、ここでJGAPの取り組みが思わぬ形で役立つことになる。
2024年元旦、能登半島地震が発生。断水と液状化現象が牧場を襲い、日常は一変した。しかし、震災発生直後、ホリ牧場の対応は迅速だった。JGAP取得に向けて準備していた災害時の対応手順が功を奏し、発災からわずか1時間半で関係機関への連絡を完了。県外の飼料会社とも早期にコンタクトを取り、スムーズな支援を受けることができた。
また、津波警報が発令された際には、対応手順に沿ってまず従業員の安全を確保した。その後、牛舎で発生した小火の対応では、JGAPの基準に沿って牛舎5棟の内部構造を統一し、消火器を同じ場所に設置していたため、迅速な消火活動が可能となった。混乱し冷静に判断するのが難しい状況の中、対応手順があったおかげで迅速に動くことができたのだ。さらに、JGAP認証取得審査のために整理していた牛舎、設備、機械などの情報が、補助金申請や復旧作業の際に大いに役立った。
このような状況の中、1月16日に予定されていた審査を延期するか否か悩んだが、「こんな時だからこそ前に進もう」との判断のもと、復旧作業と並行して審査の準備を進めることを決意し、1月30日にはJGAPを取得するに至った。
JGAPがもたらした変化を経て、現在ホリ牧場にとってJGAPとはどのような存在なのか。「これまで曖昧だったルールも、JGAPにより明確な基準が設定され、それに従い改善できる。教科書のような存在です。」と半田氏は語る。

牛も人も幸せに!ホリ牧場の新たな挑戦
「牛のニーズ、人のニーズに応える企業を目指そう」というスローガンのもと、JGAPを活用しながら、ホリ牧場は新たな取り組みを続けている。その取り組みの一つがA2ミルクである。
JGAP取得直後、ホリ牧場はA2ミルク認証も取得している。A2ミルクは、特定のβカゼインタンパク質(A2型のみを含む 牛乳で、消化吸収に優れ、おなかに優しい牛乳として注目を集めている。ホリ牧場では、7棟ある牛舎のうち1棟を専用牛舎とし、A2ミルクの生産を開始した。堀氏は、「牛乳の消費が低迷する中で、新たな価値を提供することが必要だった。」と語る。
震災を乗り越え、JGAP認証とA2ミルク認証を取得したホリ牧場。持続可能な酪農を実現しながら、消費者のニーズに応え続けるため、さらなる歩みを進めていく。

(取材年月:2024年5月)
※農林水産省「令和6年度 持続的生産強化対策事業(畜産GAP拡大推進加速化)」より