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JGAPで切り拓く都市型養豚の今
[ 東京都 古川畜産 ]

都市の中で豚を育てる
東京都で養豚と聞くと、意外に思う人も多いかもしれない。かつて、東京には多くの養豚農家が存在していた。しかし、都市化の進行とともにその数は減少し、現在ではわずかに残るのみとなっている。
そんな中、東京都立川市で都市型養豚を続けているのが古川畜産だ。1950年から続く家族経営の農場であり、現在は750頭の豚を飼育し、「柔豚(やわらとん)」というブランド豚を生産している。柔豚とは、厳選された純粋種の三元豚であり、肉質は名前の通り柔らかく、臭みが少なく、脂質もさっぱりとしている。アクが少なく、冷めても柔らかいままなのが特長だ。さらに、古川畜産は養豚業と並行して茶葉の生産も行い、畜産と農業の相互作用を活かした循環型農業を実践している。

東京都初!JGAP畜産認証農場誕生
JGAP認証の取得を決意したのは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の食材供給にGAP認証が採用されたことがきっかけだった。すでに茶葉生産ではJGAPやASIAGAPを取得していたが、養豚での取得は容易ではなく、文書の作成や記録の管理など、多くの壁が立ちはだかった。
JGAP畜産の認証取得 の過程で最も苦労したのは、茶葉との管理点の違いに対応することと、膨大な記録作業だった。茶葉のGAPは団体で取得したため、認証に必要な文書の準備は事務局が主導する。しかし、畜産は個別認証となるため、すべての文書を自分たちで作成しなければならなかった。
さらに、豚の個体ごとに治療履歴やワクチン接種等の記録を毎日つける必要があり、最初は膨大な作業に圧倒されたという。しかし、記録方法を工夫し、1枚の紙にまとめる方式に変更すると負担が軽減された。「最初は大変だったけれど、今ではすっかり慣れてしまった」と笑顔で振り返る。
こうした努力が実を結び、2022年に東京都で初のJGAP畜産認証農場となった。

視点が変われば、農場が変わる
JGAP取得後、農場経営には大きな変化があった。最大のメリットは、「GAPの視点で農場を管理できるようになったこと」だという。
「問題が起きたとき、ただ対処するだけでなく、持続可能性を高める解決策を考えるようになった。結果として、一歩進んだ経営ができるようになった」と語る。また、「しっかり管理された農場」としての評価が高まっているという。
さらに、日々の個体記録を詳細に管理することで、豚の健康状態をより正確に把握できるようになった。それだけでなく、どの素豚(もとぶた)が農場に適しているのかをデータに基づいて判断できるようになった。これにより、肥育効率が向上し、より安定した品質の豚を生産できるようになった。
JGAPの導入により、農場内の安全性が向上したことも大きな成果の一つだ。危険箇所を特定し、チェックリストを作成して注意を促すことで、働く人だけでなく、豚にとっても安心できる環境が整備された。これにより、事故や怪我のリスクが減り、快適で働きやすい農場になった。

JGAPで環境と共存する養豚へ
都市部で養豚を続けるには、周囲の環境への配慮が不可欠だ。古川畜産では、JGAPの基準を活用し、持続可能な農場運営に取り組んでいる。
例えば、都市型養豚で避けて通れない臭気問題がある。古川畜産では、排水をすべて下水処理し、豚舎を毎日洗浄することで、臭いの発生を大幅に抑えている。また、茶葉を飼料に混ぜることで、豚自体の体臭を軽減する工夫も行っている。
こうした取り組みは、JGAPの「整理整頓」の基準を活用することで、さらに強化され、農場全体の衛生環境の向上にもつながっている。
JGAPの取り組みを通じて、古川畜産は「農場をより良く改善する仕組み」としての意義を強く実感している。第三者のチェックを受けながら継続的に改善することで、持続可能性が高まる。そして、それがブランド価値の向上にも直結すると考える。「ブランド価値を高めなければ、小規模農場は生き残れない」。JGAPは、そのための大きな武器になると期待を寄せている。

都市型養豚の未来図――東京ブランドの挑戦
今後の課題は、柔豚の知名度を上げることだ。立川市内には養豚場が二件しかないからこそ、「東京都立川産」というブランドを全面的に打ち出していきたいと考えている。
柔豚を広く知ってもらうため、オンライン販売サイトの開設や、ふるさと納税への参加も視野に入れている。「たくさんの方に、一度食べたら忘れられない柔豚の味を知ってもらいたい。」。その思いが、新たな挑戦を後押ししている。
東京都立川市という都市部にありながら、環境に配慮した循環型農業を実践し、JGAP認証を取得した古川畜産。これからも、安全で美味しい豚肉を届けるために、さらなる進化を続けていく。

(取材年月:2024年7月)
※農林水産省「令和6年度 持続的生産強化対策事業(畜産GAP拡大推進加速化)」より