米を酒に変え、町を支える ― 地域をつくり直した農場の話

福島県 合同会社ねっか

かつて約6,000人いた町は、いま約3,300人。
「この田んぼを、どうするか。」

その問いを引き受け続けた農場があります。
40haから200haへ。町の水田のおよそ半分を担うまでになりました。

米を酒に変え、通年雇用を生み、雪の町から世界へ。

その挑戦は、どのようにして支えられてきたのでしょうか。

只見生まれの米焼酎ねっか

田んぼを引き受け続けた理由

福島県只見町。

人口減少が進む雪深いこの町で、田んぼと地域を守ろうとする農場があります。
合同会社ねっかです。

東京都23区とほぼ同じ面積を持つこの町は、かつて約6,000人が暮らしていました。いまは約3,300人。25年で人口は半減し、65歳以上が半数を超えています。冬には3メートルを超える雪が積もります。

創業当初の経営面積は40haでした。
しかし、只見町では高齢化が進み、稲作を続けられなくなる農家が増えていきました。

「この田んぼをどうするか」

そんな相談が持ち込まれるたび、ねっかは引き受けてきました。

耕作をやめれば、田んぼは荒れてしまいます。
雪深い地域では、一度荒れた農地を元に戻すことは容易ではありません。

ねっかが引き受け続けた理由は、規模拡大そのものではありませんでした。
田んぼを守ることは、地域の風景を守ることでもある。
地域を守るために、農業を守る。

その考えが、すべての判断の軸にありました。

今では耕作地は200haへと広がり、町の水田約400haのうち、その半分を担っています。

ねっかが目指したのは、地域を続けることでした。

米の価値を変えるという選択

只見町が抱える課題は大きく三つあります。

  1. 過疎化

  2. 稲作の維持

  3. 特産品の開発

単に米を作り続けるだけでは、地域は続きません。
米をそのまま出荷するだけでは、収益は市場価格に左右されます。

稲作を続けるためには、自分たちで価値を生み出す商品が必要でした。
そこでねっかが選んだのは、「米を売る」のではなく、「米で酒をつくる」という道でした。

日本酒や焼酎は、新規製造免許の取得が極めて厳しい分野です。
特に日本酒は、新規免許が長年認められていませんでした。

しかし、ねっかは特別に焼酎免許を取得。
さらに、70年ぶりとなる日本酒の新規免許も取得しました(輸出限定)。
現在は、日本酒、焼酎、どぶろく、スピリッツ、リキュールを製造。
来年にはウイスキー工場も完成予定です。

その酒は、海外の品評会でも高い評価を受けています。
ミラノでは最高賞を2部門で受賞。
さらに、ディスカバー農山漁村の宝特別賞、日本農業賞特別賞も受賞しました。

過疎の町から生まれた酒が、世界に認められました。
しかし、その裏側にあったのは、華やかな評価だけではありません。

複数の農家を束ね、記録を揃え、品質を統一し、酒税法にも対応する。
感覚や経験だけでは回らない経営でした。

その前提にあったのが、JGAPでした。

2023年 第52回日本農業賞 特別賞受賞

200haを5軒で揃える

創業時40haだった水田は、いま200haへと広がっています。
その広大な圃場を担っているのは、わずか5軒の農家です。

少人数で大面積を管理するということは、「揃える」こととの戦いでもあります。

種もみの購入履歴、資材の使用状況、栽培工程の記録。
誰が、どの圃場で、いつ、何をしたのか。
それを曖昧にしたままでは、品質は揃いません。
圃場のどこか一か所でも管理が甘ければ、酒の品質にも影響します。

JGAPは、食品安全や環境保全、労働安全などについて、農場が守るべき管理項目を定めた認証制度です。
栽培記録や資材管理、リスク対策を日常的に「見える化」することが求められます。

ねっかがJGAPに取り組んだ目的は、認証取得そのものではありませんでした。
栽培記録を整理し、資材の使用履歴を残し、圃場の状況を共有する。

その共通の管理基準があったからこそ、複数の農家が同じ水準で酒米を生産できたのです。

酒税法と向き合う農場

さらに、酒造りは酒税法に基づき、原料の受け入れから製造、在庫管理まで厳格な記帳が求められます。

約2年ごとに税務署の巡回が入り、数量や帳簿の整合性が確認されます。
特産焼酎免許では、地域の原料を使用していることの証明も欠かせません。

問い合わせがあれば、すぐに提示できる。
輸出先から説明を求められれば、資料で応えられる。
税務指導の場でも、原料の履歴を明確に示せる。

JGAPに則った管理手法が、そのまま酒造りの信頼につながりました。

通年経営という挑戦

酒造りを始めたことで、冬場にも仕事が生まれました。
夏は農業、冬は酒造り。通年雇用が可能になり、U・Iターンを含めた雇用の受け皿にもなっています。

半年ぶりに行う作業もあります。
だからこそ、作業手順書やリスク管理表が欠かせません。
誰が担当しても同じ水準で作業できること。
思い込みや慣れによるミスを防ぐこと。
食品を扱う以上、一つの間違いも許されません。

ここでも、JGAPで培った「記録と管理」の考え方が活きています。
個人の経験に頼るのではなく、組織として再現できる形にする。

それが、季節で業態が変わる通年経営を支えています。

子どもたちに渡す9年後の酒

ねっかは、地域とのつながりも大切にしています。

地元の小学5年生を対象に、田植えや稲刈りの体験学習を実施。
作業はすべて手植え、手刈りです。

かまの持ち方や動かし方を丁寧に説明し、圃場の危険箇所を事前に確認し、動線を整える。
子どもたちを安心して迎え入れられるのは、JGAPの労働安全の取組で日頃から圃場や作業環境を管理しているからです。

そして、子どもたちが育てた米は焼酎になります。
その焼酎は9年間、大切に保管され、
20歳の成人式の日、かつて田んぼで泥だらけになった子どもたちに、その酒が手渡されます。

高校卒業後、多くの若者が町を離れます。
それでも成人式には戻ってくる。
そのとき、自分が育てた米が酒になり、町の風景とともに記憶がよみがえる。

「地域で学んだことを思い出してほしい。
そして、地域との関わり方をもう一度考えてほしい。」
そう、ねっか代表社員の脇坂さんは語ります。

農業は、作物を育てる営みであると同時に、

人と地域の関係を、時間をかけてつなぎ直す営みでもあります。

農業は、地域をつなぐ営み

地域を守るとは、農地を守ることだけではありません。
人と町のつながりを、続けることです。

そのために農業を守る。
そして、農業を支える管理を整える。

過疎の町から、世界に認められた農場。
その挑戦は、今日も田んぼから続いています。

JGAPは、ねっかにとって「認証」ではなく、
地域を続けるための経営の土台でした。

合同会社ねっか